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新入社員への「一発芸」の指示 「パワハラ」になるのはどんな芸か?

2013年04月27日 12:00  弁護士ドットコム

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この時期、多くの職場で行われるのが新入社員の歓迎会だ。学生同士の飲み会とは違う、「社会人」としての振る舞いが求められるだけに、新人にとっては少し緊張する場だろう。そんな彼らをさらに追い込むかのように、職場によっては先輩社員が新人に、お笑い芸人がやるような「一発芸」をするよう指示することがあるという。


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元々ノリのいい性格の人なら適当にモノマネや歌を披露してしのげるかかも知れないが、そうでない人は「すべって白けたらどうしよう……」と気が気でないだろう。ネット上のQ&Aサイトにも「歓迎会で一発芸をするよう言われ泣きそうです」といった悩みが複数寄せられている。


「一発芸を披露することで、新人はより早く顔と名前を周囲に覚えてもらい、組織に馴染むことができる」という理屈もあるだろうが、こうした歓迎会での一発芸強要はパワーハラスメントに該当しないのだろうか。労働問題に詳しい古金千明弁護士に聞いた。


●人格権を侵害するような「パワハラ」を行った上司には、損害賠償を請求できる


「パワーハラスメント」(略して「パワハラ」)という言葉は多くの人に浸透しているといえるが、その意味合いは使う人によって異なっている。その点、厚生労働省が2012年に発表した報告書にまとめられた「職場のパワーハラスメントの概念」が参考になる、と古金弁護士は指摘する。


そこでは、職場のパワーハラスメントについて、次のように定義している。


「同じ職場に働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」


たとえば、上司が部下に対して、職場での立場の優位性を背景にして、業務の適正な範囲を超えて、精神的な苦痛を与える行為をおこなえば、パワハラと認定されることになる。


「そのパワーハラスメントが、職務上の地位・権限を逸脱・濫用したもので、社会通念に照らして、通常の一般人が許容しうる範囲を著しく超えるような場合は、従業員の人格権を侵害したものとして、不法行為を構成することになります」


つまり、そのような場合には、従業員はパワハラをおこなった上司に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求できるのだ。


●パワハラにあたるかどうかは「芸の内容」で変わってくる


では、歓迎会での「一発芸」の指示は、パワーハラスメントにあたるのか。まず、歓迎会は勤務時間外のことが多いので、「職場におけるパワハラ」といえるかどうか一応問題になるが、通常、新入社員は参加を拒否できない場合が多く、「仕事の延長線上」と評価できるので、「パワーハラスメントとなりえる行為」だという。


そして、「お笑い芸人がやるような一発芸」を指示することが、人格権を侵害するようなパワーハラスメントにあたるかどうかは、「一発芸の内容によるところが大きい」というのが、古金弁護士の見解だ。


「たとえば、流行のお笑い芸人がする普通の『一発芸』であって、ちょっと気恥ずかしいだけですむ場合があるかと思います。そのような『少し恥ずかしい』くらいですむ場合で、回数も1回限りということでしたら、人格権を侵害するパワーハラスメント、すなわち不法行為に基づく損害賠償請求ができる事案とまではいえないことが多いのではないでしょうか。


一方で、いわゆる『キワモノ』を売りにしているお笑い芸人や、リアクション芸人がするような『一発芸』をすることを事実上強要された場合には、これは人格権を侵害するパワーハラスメントに該当する場合があるかと思います」


このように、一発芸の内容が普通かどうかで、「人格権を侵害するパワハラ」といえるかどうかが変わってくるのだという。たとえば、いま人気復興中のキンタロー。さんの「フライングゲット!」はOKだが、江頭2:50さんの「ドーン!」などはNG、ということだろうか。


●一発芸をする社員が人並み外れた「恥ずかしがり屋」の場合は、注意が必要


ただ、注意しなければいけないのは、一発芸をさせられる社員の「性格」にもよる、という点だ。


「一発芸をする人が、人並み以上に『恥ずかしがり屋』であり、そのことを周囲が知っていた場合には、流行のお笑い芸人がする普通の『一発芸』であったとしても、事実上断れない状況下で『一発芸』をさせることは、人格権を侵害するパワーハラスメントになることもありえます」


このように古金弁護士は述べたうえで、さらに、次のように付け加える。


「また、普通の『一発芸』であっても、本人が不快の念を示しているのに、一度だけではなく、執拗に何回も『一発芸』をさせた場合には、人格権を侵害するパワーハラスメントとなる場合もあるかと思います」


実際にはケースバイケースで、なかなか判断が難しいといえそうだが、結局のところ、一発芸をさせられる社員の気持ちも考慮して、社会常識を超えるような指示は慎んだほうがいいということだろう。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
天水綜合法律事務所・代表弁護士。個人から法人(IPOを目指すベンチャー企業・中小企業、上場企業)に対するリーガルサービスを提供しております。取扱分野は、企業法務、労働問題、M&A、倒産・事業再生、一般民事(離婚・男女関係含む)です。
事務所名:天水綜合法律事務所