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村上春樹の最新作100万部超え 「ネタバレ」はどこまでセーフか?

2013年04月26日 21:50  弁護士ドットコム

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作家の村上春樹さんの最新作が4月12日の発売から7日で発行数100万部に達するという記録的な売れ行きをみせている。本のタイトルは『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。発売以前からネット通販サイトのAmazonで、予約数が2万部を超えるなど、多くの人が待ち望んでいた作品だった。


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発売当日には、深夜0時に販売を開始する書店もあり、購入してそのまま徹夜で読んだという人もいたようだ。読み終えると誰かに言いたくなるもので、ネット上には書評や感想が続々とアップされ、議論が盛り上がっている。


通常、書評には多少のあらすじなどが盛り込まれるが、最新作については最後まで読んだ人はそれほど多くない状況だろう。では、結末部分の重要な情報を明かす行為、つまり致命的な「ネタバレ」は法的に問題はないのであろうか。「ネタバレ」が違法となるようなケースはあるのか。大手出版社の元編集者という経歴を持つ村瀬拓男弁護士に聞いた。


●ネット上に書き込まれた「ネタバレ」は著作権を侵害する?


「ネタバレは、結末まで含めた中味の『ダイジェスト』と言えます」


このように指摘する村瀬弁護士はまず、「ネタバレ」が著作権に触れるかどうかについて説明する。


「たとえば、大人向けの小説を子供向けにリライトするような場合は、『翻案』にあたり、原作者の許諾が必要だと考えられます(著作権法27条)。もしネタバレを含むダイジェストが『翻案』に該当するならば、原作者の許諾なく行われるものとして著作権法違反となります。


しかし、ネット上でアップされるものには、翻案に該当するほどの表現や分量はないでしょう。『ネタ』というのは、言葉を変えれば『アイディア』です。そして著作権は『表現』を保護するものであって、『アイディア』を保護するものではないのです」


つまり、ネット掲示板などにダイジェスト的に書き込まれた程度の「ネタバレ」では、著作権法に触れないということだ。


次に、村瀬弁護士は刑法上の犯罪の成否についても説明を加える。


「よくある議論として、『器物損壊罪』(同法261条)の成否があります。結末がばらされてしまうと『モノの効用』が害されるという理屈ですね。ですが、ちょっと無理ではないかと思います。著作物の価値は結末のみにあるのではないからです」


●「ネタバレ」が民法上の不法行為にあたることも


では、「ネタバレ」は法的にまったく問題ないということだろうか。ネタバレされたファンは「やれやれ」と諦観するしかないのだろうか。


「買った本を最後まで十分に楽しみたいという読者の期待は、保護される価値のあるものと言えるようにも思われます。ありうるとすれば、『不法行為』(民法709条)として違法となる可能性でしょう」


しかし、この不法行為が成立するためには、「ネタバレをすることと、読者の期待が害されることとの間に『因果関係』が必要になります」とも話す。


「ネットの場合、読まないことは可能ですから、ネタバレであることを承知の上で読んだとすれば、因果関係はないと言えるでしょう」


では、「ネタバレなし」と銘打ちながら実はネタバレしていた場合や、テレビなどでネタバレした場合はどうだろうか。


「このような場合は、読者は、ネタバレを読まない、聞かないという選択は事実上できなくなりますから、因果関係は肯定されてよいかもしれません。聞きたくないと拒否している人の前でわざとネタバレする場合もそうでしょう。


これらのようなケースに限定すれば、民法上の不法行為としての違法となる可能性はあるのではないでしょうか」


世の中には、読む前にネタバレされても気にしないファンもいるが、そうではない人も相当いるだろう。ネタバレされて怒った人から「不法行為」で訴えられる可能性は限定的だとはいえ、多少は気をつけたほうがよいのかもしれない。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
村瀬 拓男(むらせ・たくお)弁護士
大手出版社勤務を経て弁護士に。出版、電子書籍、映像製作の実務経験があり、現在は出版、IT事業の企業法務を中心に手掛ける。著書『電子書籍・出版の契約実務と著作権』『電子書籍の真実』
事務所名:用賀法律事務所
事務所URL:http://www.youga-law.jp