2013年04月21日 13:00 弁護士ドットコム
外出先で突然、「ある資料を至急メールで送信せよ」と、会社から電話がかかってきたとする。あわてて、路上でノートパソコンを開き、ブラウザを立ち上げたところ、自分がネット接続できる環境にいないことを気づく。あたりを見回しても無料アクセスポイントのある飲食店はなさそうだ。
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「もしかして・・・」。ネットワーク一覧を開くと、いくつか無線LANの電波が飛んでいる。そのうちの一つには、パスワードロックがかかっていないようだ。そのネットワークを選択すると、はたしてパスワード入力もなしにネット接続できてしまった。渡りに船とばかりにメールを送信――。
このようにセキュリティロックがかかっていなくて、簡単にタダ乗りできてしまう無線LANのことを、俗に「野良無線LAN」と呼ぶ。確かに便利ではあるが、野良無線LANにタダ乗りする行為は法的に問題ないのだろうか。石下雅樹弁護士に聞いた。
●「野良無線LAN」をタダ乗りすると、通信内容を傍受されるおそれがある
「セキュリティロックのない無線LANへのただ乗り自体を直接禁止する法律上の根拠は、現時点では見あたりません」
このように、石下弁護士は述べる。つまり、冒頭のケースのような「野良無線LAN」にタダ乗りする行為は、今のところ禁止されていないということだ。では、それは法的な問題がまったくないということを意味するのだろうか。
石下弁護士は「このような行為は、自分自身が法的責任を負い、また勤務先の会社に法的責任を負わせることになりかねません」と警鐘を鳴らす。
「セキュリティロックのない無線LANでの通信について、他者が傍受できることは知られています。もし、ただ乗りした無線LANによる通信によって、会社の営業秘密が傍受され漏洩すれば、就業規則の『機密情報保持』などの規定への違反となります。
会社から懲戒を受けたり、解雇されたりする原因となりえます。さらには会社から損害賠償請求を受ける可能性もあります」
●「野良無線LAN」の利用は法的なリスクが高いので避けるべし
つまり、セキュリティロックのない無線LANを使うということは、他の人に通信内容を知られ、会社の営業秘密などが外に漏れるリスクがあるのだ。それによって、勤務先とのトラブルが発生する。さらに、石下弁護士はさらなる事態について説明を続ける。
「漏洩したデータが取引先の営業秘密や顧客の個人情報である場合には、勤務先の会社に、これら他者に対する『損害賠償責任』(使用者責任)を負わせることになりえます。
また、こうした事故は会社の信用低下につながりますから、取引先喪失など、さらに甚大な損害を引き起こし、結果的に会社にも大きな迷惑を与えることにもなりえます」
冒頭の会社員は、あわてふためいて「野良無線」に頼ってしまったが、その利用は、結果的に自身にとっても、勤務先会社にとっても、法的なリスクが高いものだと言える。石下弁護士は「絶対に避けるべきでしょう」とアドバイスしていた。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
石下 雅樹(いしおろし・まさき)弁護士
弁護士法人クラフトマン 代表弁護士・弁理士
ITに関する法律、特許・商標・著作権等の知的財産権、国際取引、労働法、会社法務等のビジネスローを中心に業務を行っている。
事務所名:クラフトマン新宿特許法律事務所
事務所URL:http://www.ishioroshi.com/