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「ミスター」と「ゴジラ」がダブル受賞 「国民栄誉賞」の法的根拠は?

2013年04月17日 19:30  弁護士ドットコム

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日本の野球界が生んだ「ミスタージャイアンツ」長嶋茂雄と「ゴジラ」松井秀喜の2人に「国民栄誉賞」が贈られることになった。授与式は5月5日に東京ドームで催される予定だ。


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いまから約20年前の1992年のドラフト会議。巨人の監督だった長嶋氏は、当時高校生の松井選手との交渉権を獲得した。当たりくじを引いて右手親指を立てた長嶋監督の笑み、会見に臨んだ松井選手の緊張した面持ちは、今でも語り草となっている。その後、2人が一緒に国民栄誉賞を受けるまでになるとは、その場に居合わせた誰にも予想できなかっただろう。


2人の功績については誰しも認めるところだが、今回の受賞については「野村克也や張本勲ら、長嶋以上の成績を残している選手もたくさんいる」「一足先に大リーグで成功した野茂英雄は対象にならないのか」などと、選考基準に対する疑問の声も上がっている。


国民栄誉賞は以前から、しばしばこういった批判の対象となっている。国家行事なのだし、何らかの客観的な選定基準や法的根拠はないのだろうか。また「叙勲・褒章」など、他の制度とはどう違うのだろうか。


●いつ誰に授与するかは、内閣総理大臣の考えしだい


国民栄誉賞の目的は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについて、その栄誉を讃えること」で、1977年、福田赳夫総理が決めた「国民栄誉賞表彰規程」(内閣総理大臣決定)に基づいて運用されている。


日本スポーツ仲裁機構(JSAA)の仲裁人候補であり、スポーツに関する法律に詳しい辻口信良弁護士は「制定のきっかけは、王貞治選手の本塁打世界記録達成でした。おそらく福田総理のアイデアだったのでしょう」と話す。スポーツ関連ではその後、山下泰裕、衣笠祥雄、千代の富士、高橋尚子、なでしこ女子サッカーチーム、吉田沙保里、大鵬が受賞している。


規定によると、国民栄誉賞は総理が「随時」、「適当と認めるもの」に対して授与するとされている。辻口弁護士は「つまり、誰にいつ賞を与えるかは、総理の考えしだいなのです。同賞がしばしば『政治の道具』だと批判されるのは、そういった事情が背景にあります」と解説、「今回も物価上昇から目を逸らすための安倍晋三総理によるパフォーマンスだとか、某新聞社の突き上げだなどと言われています」と指摘する。


一方、国民栄誉賞と似たようなものとして、「内閣総理大臣顕彰」がある。これは1966年、佐藤栄作内閣の閣議決定に基づく制度で、これまでに室伏重信、中野浩一、岡本綾子、ジーコといったスポーツ関係者が受賞しているが、「現在では国民栄誉賞の方が格上とされている」(辻口弁護士)という。


辻口弁護士は今回のダブル受賞について、個人的な意見と断ったうえで「長嶋については授与が遅すぎる、逆に松井については同じ石川県出身者として、個人的には大ファンなのですが、早すぎるうえ、内閣総理大臣顕彰でも良いのではないかと思っています」と感想を述べていた。


なお、毎年春・秋に行われる「叙勲・褒章」は、日本国憲法第7条7号を根拠として天皇が授与する「栄典」で、制度もその性質も全く異なるが、「政治的利用の可能性という点では軌を一にする」(辻口弁護士)という。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
辻口 信良(つじぐち・のぶよし)弁護士
大阪弁護士会所属。元大阪弁護士会副会長、関西大学・龍谷大学講師(スポーツ法学)、スポーツ問題研究会代表、日本スポーツ法学会会員、日本スポーツ仲裁機構(JSAA)仲裁人候補。訴訟事件、交渉事件全般(民事)を中心に取り扱う。
事務所名:太陽法律事務所
事務所URL:http://www.taiyo-law.jp/instanthp/page04.html