2013年04月12日 21:40 弁護士ドットコム
今年のセンバツ高校野球で準優勝となった、済美高校(愛媛)のエース・安楽智大投手。彼が初戦から決勝までの5試合で投げた772球という驚くべき球数について、アメリカのメディアやネット上では「酷使だ」との声が上がっている。
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こうした議論の中、話が球数制限に及ぶと、安楽投手本人は「エースが最後まで投げるというのがプライドというか、自分の考え。球数制限は、自分的にはあまりしてほしくないというのが本音」と語っているという。
たしかに高校野球の場合、投手が勝利のカギとなるが、いくらなんでも投げ過ぎと言えるかもしれない。将来のある投手が肩を壊してしまっては、ファンだけではなく本人も後悔するだろう。高校野球の投手に、故障のもとになるのではないかというくらいの球数を投げさせることは、法的に問題ないのだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。
●「故障のもとになるほどの球数」が明確ではない
「そもそも、『故障のもとになるのではないかというくらいの球数』というのが、はっきりとした数字として特定できるのか、この点が問題です」
このように大久保弁護士は疑問を口にする。
「何球以上投げたら故障が間違いなく起こる、という明確な医学的基準が、現在あるとは思えません。『球数』といっても、1試合のみで判断するのか、あるいは連投した場合の球数で判断するのか、それすらも判然としません」
このように述べたうえで、次のように結論づける。
「その意味で、単に多くの球数を投げさせたからといって、法的な責任が生じることにはなりません」
●投げすぎによって、肩を壊した場合はどうか
では、「酷使」といえるほどの球数を投げた結果、将来有望な投手が肩を壊して、選手生命が断たれた場合はどうだろうか。
「たとえば、肩やひじに違和感や軽い痛みがあるということを選手自ら監督に告げていたり、監督が選手の様子からそれを容易に知ることができたにもかかわらず、選手に続投させたために、肩や肘を壊して選手生命を断たれたという場合であれば、監督や学校に損害賠償を求めることは可能です。
公立高校であれば、監督個人に対しては責任を問えませんが、学校の設置管理者である公共団体に対して、国家賠償法に基づいて損害賠償責任を問うことができます。私立高校であれば、監督及び学校の設置管理者である学校法人に対して、民法に基づいて損害賠償責任を問うことができます」
もし損害賠償請求ができる場合、その金額はどのようにして決まるのだろうか。
「賠償の対象となるのは、治療費や入通院費、慰謝料、後遺障害に対する逸失利益というところでしょうか。プロになれなかったことに対する慰謝料や、プロになったとして受けられたであろう利益までは認められないでしょう」
選手が肩の違和感を訴えているのにあえて投げさせるというのは、かなり異例の場合だろう。安楽投手のように、ただ「球数が多い」というだけでは、法的な問題が生じるといえないようだ。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
大久保 誠(おおくぼ・まこと)弁護士
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