2013年04月09日 17:50 弁護士ドットコム
「校長、副校長、学年主任、担任のフルネームと実印を押して原本をよこしてくれ」。小学校に通う子どもがケガをしたのは担任のせいだとクレームをつけ、学校側に「謝罪文」を書かせようとした男が3月下旬、強要未遂の疑いで逮捕された。
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発端は、昨年12月。男の長女が帰宅途中に転倒して小指を骨折した。それを受けて、男は学校に「担任が荷物をたくさん持たせて帰宅させたのが原因」などとクレームをつけ、謝罪を要求し続けたのだという。男は「強要はしていない」と容疑を否認していると伝えられている。
今回のケースでは「謝罪文」まで要求しているが、何か迷惑を掛けられた際に、その相手に口頭や書面で謝罪を要求する行為はよくある話だろう。では、「謝れ」と迫っただけでも、犯罪になってしまうのだろうか。刑事事件に詳しい伊佐山芳郎弁護士に聞いた。
●「謝れ」と迫っただけでは、「犯罪」にはならない
「謝罪を要求しただけでは、強要罪にはなりません」
伊佐山弁護士はこう端的に指摘する。そのうえで強要罪について次のように説明する。
「強要罪については、刑法223条が定めています。強要罪が成立するためには、手段として『脅迫』または『暴行』がなされることが必要です。『脅迫』を手段とする場合、相手が恐怖心を生じなければ強要をしたこと(既遂)にはならない、と解されています。
そして、強要罪が成立するためには、『脅迫・暴行』の結果として、相手に義務のないことを行わせるか、または行うべき権利を妨害した、ということが必要です」
このように強要罪が成立するための要件を述べたうえで、伊佐山弁護士は「未遂罪」についても言及する。
「強要罪の手段としての『脅迫・暴行』はあったが、相手方に義務のないことを行わせ、または行うべき権利を妨害するまでに至らなかった場合には、強要罪の『未遂』となります(223条3項)。
一方、『脅迫』や『暴行』そのものが未遂に終わったケースであれば、未遂にもなりません。たとえば、強要の目的で脅迫状を郵送したが、相手方に到達しなかったような場合は、強要未遂罪は成立しないと解されます」
●脅迫・暴行を手段として、『謝罪を要求する』という事実と強要罪の成否について
では、謝罪文を要求し続けて逮捕された父親の事件では、強要罪は成立するのだろうか。
「長女の父親が、学校に対して、謝罪を要求したからといって、それだけでは強要罪にはなりません。
学校側には謝罪すべき義務がない事案であるにもかかわらず、父親が『脅迫・暴行』を手段として、『謝罪を要求する』という事実があれば強要罪になります。
しかし、父親が謝罪を要求し続けたとしても、『脅迫・暴行』を手段としていないのであれば、父親の学校への謝罪要求は犯罪にはならないといわなければなりません」
このように述べたうえで、伊佐山弁護士は次のように指摘している。
「今回、報道されている『強要はしていない』という父親の言い分が、『脅迫・暴行を手段としていない』という意味で、それが事実とすれば、刑事上の問題は何ら生じず、逮捕は不当で冤罪ということになると考えます」
このように強要罪の成立する範囲は限定的になることが多そうだ。身近にあるようで、意外と知られていない犯罪と言えるのかもしれない。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
伊佐山 芳郎(いさやま・よしお)弁護士
主な取り扱い案件は、交通事故、離婚、遺産相続、医療過誤、借地借家問題、刑事弁護、刑事告訴・告発など。相談者・依頼者の立場に立って話を聞き、「現場主義」を貫くことをモットーとしている。
事務所名:伊佐山総合法律事務所
事務所URL:http://www.bengo4.com/search/128280/