「時間」という言葉をどう使うかは、お客様との信頼につながるポイントであると、ホテルマンだった高野氏は語る。「時間がありません」「時間があるときにやっておきます」といった言葉は仕事でもよく聞かれるが、間違いなく信頼を失う言葉だ。お客様から何かを頼まれたとき、ホテルマンの返答は、基本的に「かしこまりました」「ただちにいたします」しかない。忙しくても「かしこまりました」だ。
高野氏がアメリカで体験した話を紹介する。アメリカ人から電話がかかってくると、必ずと言っていいほど「Do you have a minute?(今、時間ありますか?)」あるいは「Can you talk now?(今、話せますか?)」という一言から始まるという。この言葉は「今、ちょっとあなたの時間が欲しいのだけれど、大丈夫?」という相手の時間に対する敬意の表れなのだ。相手の時間に対する気遣いの言葉。この小さな繰り返しが、これから5年、10年にわたって一緒に仕事がしたいという印象を形づくり、信頼につながっていく。
誰でも時間は有限。その中で全員が精一杯仕事をしているのであって、自分だけが忙しいというのは、手前勝手な言い分ではないだろうか。そこに気付けば、時間に対する感覚に変化が生まれ、相手の時間の使い方を尊重する意識が芽生えてくる。相手の時間を尊重すれば、必要な気遣いも自然に生まれてくるのだ。