2013年04月01日 18:30 弁護士ドットコム
新年度が始まり、新しい賃貸住宅で生活を開始した人もいるだろう。しかしアパートの家賃を滞納した結果、部屋から荷物を勝手に撤去されて、鍵まで変えられた――。弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」に、このような悩みが寄せられたことがある。相談者はうつ病などがあり、生活保護を受けて生活しているという。家賃未払いは、生活保護を受ける前だったという事情もあるようだ。
国民生活センターにも、「年金暮らしで収入が少ない」「失業してしまった」などの理由で、賃貸住宅の家賃を支払えない「家賃滞納者」から相談が寄せられている。なかには、大家や不動産屋から、強制的な退去を請け負う「追い出し屋」なる業者まで存在しているという。
はたして、大家や不動産屋などが、家賃を支払わない人を強制的に追い出す行為は合法なのだろうか。「追い出し屋」は問題ないのか。田沢剛弁護士に聞いた。
● 大家や不動産屋の「追い出し行為」は不法行為にあたる
「緊急のやむを得ない特別の事情が存在する例外的な場合でない限り、大家や不動産屋が、アパートの家賃を滞納したことを理由に、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換した場合は、借主に対する不法行為(民法709条)に該当し、違法ということになります。
逆に、借主は、これによって被った損害について、賠償を請求できることになります」
田沢弁護士はこのようにずばり話す。この結論に至る根拠はなんだろうか。田沢弁護士によると、「自力救済の禁止」という考え方がカギとなるようだ。
「家賃を滞納する借主に対し、大家が賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求めたのに、借主がこれに応じない場合があるとします。このようなとき、通常の手続きとしては、大家は裁判所に明渡しを命ずる判決を求め、その判決に基づいて裁判所に明渡しの強制執行をしてもらうことになります。
他方、裁判所の力を借りずに、私的な力で権利を実現する行為は、一般的に『自力救済』と呼ばれます」
●「自力救済」は原則として禁じられている
田沢弁護士は、自力救済について判示した最高裁判所の判例を引き合いに出す。
「最高裁判所は、『私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。』(昭和40年12月7日判決)と判示し、法的手続によらない自力救済が原則的に禁止されることを明らかにしております」
つまり、部屋から荷物を勝手に撤去したり、鍵を交換するといった行為は「自力救済」であり、自力救済が原則的として禁止されていることから、追い出し行為は借主に対する不法行為にあたるということなのだ。
「追い出し行為については、最近でも根絶されていないようで、これを違法とする下級審判決が相次いでいるようです。日本弁護士連合会も、昨年6月28日に『賃借人居住安定化法案(追い出し屋規制法案)の制定を求める意見書』を提出しているところです」
このように実際には、「追い出し」行為を受けて追い出されてしまうケースはあるようだが、例外的な場合をのぞいては、アパートを無理やり追い出すことは許されていない。もしも、そのような状況に陥ったときには、「自力救済の禁止」を思い出して、冷静に対処したい。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後,新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp