2013年03月27日 18:10 弁護士ドットコム
人気アイドルグループAKB48の河西智美さんの写真集が「児童ポルノにあたるのではないか」と指摘されて、発売中止になった問題。新聞報道によると、警視庁は児童ポルノ法違反の疑いがあるとして、写真集の発売元である講談社を捜査していたが、立件を見送る方針を固めたという。
問題となったのは、河西さんの上半身裸の胸の乳首周辺を、白人の少年が両手で後ろから覆っている写真。講談社は、この写真も掲載された河西さんのソロ写真集を2月に発売する予定だったが、インターネット上で「児童ポルノにあたるのでは?」と指摘されて騒動になり、結局、発売中止に追い込まれた。
報道によれば、講談社が写真集を発売中止にするなど写真の流通防止に努めたことが、立件見送りの一因だったという。しかし、今回の写真集は児童ポルノ法上、問題なかったのか。もし違法だったとしたら、なぜ立件されなかったのか。児童ポルノ法に詳しい奥村徹弁護士に聞いた。
●今回の写真は「児童ポルノ」にあたるのか?
まず、そもそも「児童ポルノ」とは、法律上、どういったものをさすのだろうか。この点について、奥村弁護士は次のように説明する。
「児童ポルノ法2条2項2号では、『他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって、性欲を興奮させ又は刺激するもの』を『児童ポルノ』としています(いわゆる『2号ポルノ』)。
この定義の中の『性器等』というのは、『性器、肛門又は乳首』をいいます(同法2条2項)。そして、『性器等を触る』というのは直接・間接を問いませんので、問題の写真では児童がタレントの乳首、すなわち『性器等を触っていることが明らかです」
では、今回の写真は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」にあたるのだろうか。
この点について、奥村弁護士は「上半身が裸の妙齢の女性の胸を触っていれば、性的興奮を覚える人も多いと思われますので、『性欲を興奮させ又は刺激するもの』という要件も充たします」と述べる。
すなわち、問題の写真は「2号ポルノ」に該当するということだ。したがって、製造や販売にかかわった者には次のような犯罪が成立する可能性があるという。
「撮影・印刷・製本に関係した人は提供目的製造罪(同法7条5項、最高懲役5年)、販売に関係した人は児童ポルノ提供罪(7条4項、最高懲役5年)に問われる恐れがあります。また今回は実際に写真集の一部が店頭に並んでいますので、提供罪も既遂になっていると思われます」
●なぜ、立件されなかったのか?
では、「児童ポルノ」にあたると考えられるにもかかわらず、なぜ立件されなかったのだろうか。
「児童ポルノの製造・販売事例については、故意に行われた場合でも、別途、性犯罪・福祉犯が立件されない場合には、執行猶予付きの懲役刑となるのが通常です」
このように述べたうえで、奥村弁護士は、警察が捜査を始めたものの立件しなかった理由として、次の4点をあげた。
(1)いわゆる裏写真集ではなく、大手出版社が適法に出版することを意図した写真集であって、一定の芸術性を備えていることから、表現の自由に配慮する必要がある(児童ポルノ法3条)
(2)「乳首」が「性器」に含まれるという定義は一般的とは言いがたいうえ、「性器等」の定義が「児童買春」の定義のところ(児童ポルノ法2条2項)に書かれており、「児童ポルノ」の定義としては見逃しやすい体裁になっている
(3)これまで検挙された2号ポルノの製造・販売事件は、児童と成人が性交等をしている際の接触行為のものが多く、それらとの比較では、本件は被害の程度が低い
(4)出版社が警察の指摘を受けて、写真集の予告が掲載された週刊誌を店頭で回収して、販売済のものについても買い取るなどして徹底して回収して、被害を最小限にとどめるために最大限の努力をした」
奥村弁護士によると「立件が見送られたのは、このような点が考慮されたからだと思います」ということだ。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会図書情報委員。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://www.okumura-tanaka-law.com/www/top.htm