2013年03月22日 16:20 弁護士ドットコム
元病院職員が「病院主催の反TPP集会への不参加を理由に、解雇したのは違法」として病院を訴えた裁判で、東京地裁は3月5日、解雇を無効とするとともに、病院側に約850万円の支払いを命じる判決を下した。この集会は、経営者の政治活動の一環として企画されたもので、職員の業務とは関係なかった。
これは極端なケースだが、病院でも会社でも、その組織のイベントに職員や社員が参加させられることは多い。たとえば「創立記念式典」などは、会社にとっては重要だろう。では「社内運動会」はどうか。会社の業務とは関係なさそうだが、「連帯感を高める」などの理由で、会社側が重要視していたりする。
「会長主催の卓球大会が毎年あった。ラケットや台も社内にあり、各部署から、男女ペアで出るのが義務だった」というのは、ある出版社の社員の言葉。また、ある不動産会社の社内運動会は、女性の派遣社員と男性正社員との「二人三脚競争」があるそうだ。彼女らは「そこまでする義務があるの?」と思っても、派遣契約の更新への影響を心配し、やむをえず出るそうだ。
社員は社内運動会に必ず出なければいけないのだろうか。参加しなかったことを理由として、会社がその社員を解雇するのは許されるのだろうか。労働問題に詳しい佐藤篤志弁護士に聞いた。
●社内運動会は通常、自由参加なので「参加義務」はない
「社内運動会などの会社行事は、通常、業務時間外に自由参加の建前で行われるので、そのような場合に、従業員が社内運動会に参加する義務はありません」と説明する。
したがって、「社内運動会に参加しなかったことのみを理由とする解雇は、当然違法です」という結論になる。
もっとも、今回、報道された病院のケースは「かなり例外的なケースではないか」と、佐藤弁護士は言う。
「今回の裁判例は、おそらく、もともと別の理由で解雇したところ、従業員の側が『実質的な理由は集会への不参加だった』と主張して争ったケースだと思われます。裁判所も、その主張に沿った事実認定をしたようですが、よほどの事情がない限り、そのような認定にはならないだろうと思われます」
つまり、社内運動会に参加しなかったことだけを理由にして解雇すれば当然違法になるのだが、会社もそのようなことは分かっていて、解雇理由として別の事情をあげると想定されるというわけだ。裁判では、「会社が社内運動会不参加を理由に解雇した」ということを立証しなければいけないので、それはなかなか大変なことだといえるのだろう。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
佐藤 篤志(さとう・あつし)弁護士
会社法務、金融法務を中心とした企業法務、また、交通事故などの損害賠償を得意としています。依頼者の方には、質の高い丁寧な法的支援をリーズナブルに提供することを心掛けております。
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