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タイムカードで「退勤」記録したあとの「残業代」 会社に請求できるか?

2013年03月21日 21:30  弁護士ドットコム

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東急ハンズ心斎橋店(大阪)に勤めていた30歳の男性が急死した。その原因は長時間勤務による過労にあったとして、遺族が東急ハンズを訴えた裁判で、神戸地裁は3月13日、「対策をとらなかった」として同社に約7800万円の支払いを命じる判決を下した。


どの業種、どの職場でも、忙しい時期は労働時間が長くなりがちだ。しかし、この男性の場合は、タイムカードに「退勤時刻」を記録したあともサービス残業をして働かざるをえないほど、過酷な環境に置かれていたことが裁判で明らかになった。


働く者にとって、「タイムカード」は、勤務時間を記録し給与の額を計算するための大切な証拠となるものだ。しかし、タイムカードで「退勤」となったあとの勤務については、その分の賃金を請求しようとしても、なかなか難しいのが現実だ。意地悪な会社の場合、「実際に働いた証拠はあるのか」とか、「タイムカード外の時間は、社員が勝手に働いたもの。関知しない」などと言うかもしれない。


はたして、タイムカード後の残業代は請求することができないのだろうか。労働問題に詳しい波多野進弁護士に聞いた。


●「タイムカード打刻後」の残業代も請求できる


「やらなければいけない仕事があるのに、残業時間が多いと人事評価が下がる職場であったり、ただ働きを事実上強いる会社であったり、いろんな事情から、労働者の方々がタイムカードに『退勤時刻』を記録した後も、仕事を継続しなければいけないことが現実にあります。


このような現実は、報道されているような過労死や過労自殺といった労災事件や残業代の事件を通じて、弁護士の立場からもしばしば体験しているところであります」


このように「タイムカード後の残業」をせざるをえない現実があることを、波多野弁護士は指摘する。しかし、「それが現実だから、あきらめるしかない」というわけではない。


「業務の必要性があって残業を行わざるをえないような状況で、タイムカードを打刻した後も残業した場合には、タイムカード打刻後の分も残業代を請求できます。これは、タイムカードがない会社でも、実際に残業したことが立証できれば、残業代が認められるのと同じです」


つまり、タイムカードに記録が残っていなくても、それ以外の証拠によって残業したことが立証できれば、残業代は請求できるということだ。「実際の裁判では、警備記録や入退室記録、同僚などの証言などタイムカード以外の証拠を総合して、実際の残業代を立証していくことになります」


このように「タイムカード後の残業」も、立証さえできれば残業代を請求できるというわけだが、本来の姿からいえば、タイムカードを押したあとにも働いているという状況こそがおかしいといえる。過労死の悲劇を防ぐためには、そのような労働実態の改善こそが求められている。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来10年以上、過労死・過労自殺(自死)案件(労災・労災民事賠償)や解雇や残業代にまつわる事件に数多く取り組んできている。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://komon-law.com