2013年03月20日 19:00 弁護士ドットコム
大阪市立桜宮高校のバスケットボール部の男子生徒が体罰を苦にして自殺した事件など、体罰が大きな社会問題になっていることを受け、各地の教育委員会は、現場の教師を対象にした研修会を開いている。
京都市教育委員会が3月4日に実施した研修会では、参加した300人の教師を対象に、体罰に関するアンケートをおこなった。報道によると、「学校で他の教諭が体罰しているのを見たことがあるか」という質問には、8割前後が「ある」と答えたという。そして、体罰を止めたことがあるという回答は、半数程度に留まった。
学校教育法11条で、校長と教員は、児童・生徒・学生に「体罰を加えることはできない」とされており、桜宮高校の体罰問題では、男子生徒に体罰を加えた男性教師が懲戒免職になった。では、教師が体罰をしているのを知っていながら見逃した場合はどうなのだろうか。なんらかの責任は問われないのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。
●教員が体罰を見逃した場合には、不法行為となる可能性も
小池弁護士はまず、体罰といじめとの類似性に注目し、「生徒によるいじめを教員が見逃した」ケースについての判例を紹介する。
「教員には『生徒の生命、身体、精神等の安全を確保』するための具体的措置を講ずる義務があるとした上で、いじめの見逃しはこの義務に違反するものとして、教員の不法行為になることを認めた判例があります」
その上で、小池弁護士は次のように解説する。
「『生徒の生命、身体、精神等の安全の確保』という点では、体罰であっても反復性があれば、いじめと同様でしょう。教員が体罰を見逃した場合には、不法行為(民法709条)となる可能性があります」
では、不法行為となると、体罰を見逃した教員に対する損害賠償が認められるということなのだろうか。
「教員が公務員であれば、国家賠償法1条により、国または公共団体が民事責任を負います。その場合、公務員個人の民事責任は原則として追及できない、というのが判例です。つまり、私立学校はともかく、国公立学校の場合、見逃した教員自身から損害賠償金を取ることはできません」
●体罰の見逃しについて、刑事責任は認められない可能性が大きい
このように、ほかの教員が体罰をしているのを知っていながら見逃した教師に対して、民事責任を問うことは原則できないということだ。では、刑事責任は問われないのだろうか。刑法では、保護責任者遺棄罪(同法218条)のように「何かをしなかったこと」を罪に問う場合があるが、今回のケースではどうなるのか。
「『何かをしなかったこと』について、暴行罪(同法208条)や傷害罪(同法204条)が成立するとしても、それは、故意の暴行や傷害と同様の危険を引き起こしたと評価できる場合に限られます。体罰の見逃しが体罰そのものと同様の危険を引き起こしたとはいえないでしょうから、刑事責任はまず認められないでしょう」
なお、小池弁護士によると、「見逃しの内容しだいでは、服務上の懲戒処分はありえます」ということだ。そもそも学校には閉鎖的な側面があり、そんな中で、同僚の体罰を注意することは勇気のいることなのかもしれない。だが、生徒にとって最悪の事態を防ぐためには、教員同士がしっかりとコミュニケーションをとっていく必要があるだろう。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html