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亀岡死傷事故、裁判は「第2審」へ 量刑は変更されるべきか?

2013年03月13日 18:10  弁護士ドットコム

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京都府亀岡市で、集団登校していた小学生らに軽乗用車が突っ込み、3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。軽乗用車を運転していた少年は、自動車運転過失致死傷と道路交通法違反(無免許運転)の罪に問われ、今年2月19日に京都地裁で「懲役5年以上8年以下」の不定期刑の判決を言い渡された。


こう判決は、検察の求刑(懲役5年以上10年以下)より軽いものだったことから、遺族たちは「求刑を下回ったことは理解できない」と憤りの声をあげ、京都地検も2月28日、判決を不服として、大阪高裁に控訴した。一方、弁護側は3月1日に「量刑が重すぎる」として控訴した。


この事故は、「第2審」である大阪高裁で再び審理されることになるが、量刑は判断は変更されるべきだろうか。「懲役5年以上8年以下」という地裁判決よりも重くなるべきだろうか。それとも軽くするべきだろうか。あるいは、地裁判決が妥当なのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。



アンケート結果

1.地裁判決よりも重くすべき 【9票】
2.地裁判決を維持すべき 【8票】
3.地裁判決よりも軽くすべき 【0票】
4.いずれともいえない 【5票】



居林 次雄
投票:地裁判決を維持すべき

少年法が適用される事件でありますから、軽くなるのは仕方がないことです。
被害者感情からは到底納得できないと思われますが、少年の前途も考慮して、この程度の量刑でやむを得ないと思われます。
できるだけ早く更生させてやりたいという少年法の理念を尊重したいと思います。
刑罰は、重ければ重いほど良い、というものではなくて、被告人のために最も有利なものを選んでやるのが、刑法、少年法の本旨だと思います。





大和 幸四郎
投票:地裁判決よりも重くすべき

集団登校していた小学生らに軽乗用車が突っ込み、3人が死亡、7人が重軽傷を負ったという事案である。確かに、少年ということが地裁では考慮されたのかもしれない。しかしながら、何ら落ち度のない小学生らに車につっこんだという事実、3名が死亡、7人が重軽傷という結果の重大性、遺族や被害者の感情等を考慮するならば、原審の判決は軽いと考える。





岡田 晃朝
投票:地裁判決よりも重くすべき

刑罰法規の罰則に幅のある記載がされているのは、その行為の状況や社会事情、その他諸事情など総合的に反映し相当の刑を科すことができるようにするためです。

にもかかわらず、過去の裁判例からの相場観のみを重視しての判決は、妥当性を欠くと思われます。


他の類似犯罪者の公平や行為と刑のバランスも必要でしょうが、社会全体が厳罰化を求めている中、そのような社会の声にも配慮し、法規の範囲でできる限りの厳しい刑を考慮すべきではないかと思われます。





梅村 正和
投票:地裁判決よりも重くすべき

免許とは、原則は禁止されている行為を、特別に認めてもらうということ。人の命にかかわる行為であるために免許制になっている場合、あえて無免許状態で行為し、重大な結果を生じた場合には相当に重い刑が科されても仕方ない。

たとえば、鉄道の線路に石などをおいて鉄道の運行を妨害するだけだと、法定刑は、2年以上20年以下の懲役だが(刑法125条1項及び12条1項)、その運行妨害行為によって列車が転覆し、死者が出れば、法定刑は、死刑又は無期懲役となっている(刑法126条3項)。

これに対して、自動車の無免許運転によって死者が発生した場合に、結果に比して法定刑が軽いのは法の不備と言える。

したがって、本来はもっと重い刑罰を科すべき行為なのだが、そのような規定が法の不備のために存在しないので、今ある法律の範囲でできるだけ重く処罰することが妥当という話になる。





秋山 直人
投票:地裁判決よりも重くすべき

危険運転致死罪の適用は現行法上は無理でしょうから、検察が、自動車運転過失致死傷罪で起訴し、少年法上で認められる上限の求刑をしたことはやむを得ないでしょう。

しかし、3人が死亡、7人が重軽傷を負ったという結果の重大性に鑑みると、裁判所としては、求刑と同じ判決をしても良かったのではないか、と思います。

もちろん、被告人にとって有利に斟酌すべき事情を何ら把握していない状態での意見ですから、そのような事情によっては、地裁判決が相当だったのかもしれません。





中谷 寛也
投票:地裁判決を維持すべき

ご遺族の方の気持ちを考えると心が痛むのですが、それと法的な判断は別個に考えなければならないと思います。

そして、本件があくまで自動車運転過失致死にしか問えない事案であり、また(事案の証拠関係などを詳しく見ているわけではないので何ともいえませんが)少年にもそれなりに有利な事情があるのであろうことを考えれば、求刑から若干割り引かれた今回の量刑でも不当とまではいえないのではないかと考えます。

もちろん、立法的な解決(すなわち、無免許運転及びそれにより事故を発生させた場合の厳罰化)は十分議論の余地があると思っています。





古金 千明
投票:いずれともいえない

刑事事件の判決によって定められる刑罰は,犯行自体の悪質さを中心として、被告人にとって有利な情状、不利な情状を総合考慮して裁判官が判断することになります。

刑罰法令の適用についても、法の下の平等の原則の適用がありますので、社会的にみて、同じような犯行態様・情状の事案については、同じような刑罰が定められることになります。地域や裁判官によって極端に差が出るようであれば、上級審(高裁等)で是正されることになります。

報道では、被告人にとって有利な情状がどれくらいあるのかは詳しくはわかりませんが、「3人が死亡、7人が重軽傷」という結果だけをみると、感覚的には、検察官求刑どおりというのもありえるかとは思います。

ただ、高裁で是正されるほど軽すぎるかというと、同種事案の過去の量刑事情を調べてはいませんが、感覚的には微妙な気がします。





本橋 一樹
投票:地裁判決よりも重くすべき

検察庁はそれなりの自信を持って起訴しているわけですから、一応はそれを信用したいと思います。

回答が難しいのですが、求刑よりも軽い判決を言い渡すのであれば、遺族に対して納得のいく理由を判決書で記載すべきですが、それは不可能だと思います。

求刑を下回る判決の場合の説明は、困難ではないかと思います。





尾崎 博彦
投票:地裁判決を維持すべき

子を持つ親の立場としては、ご遺族のお気持ちは分かる。

ただ、あくまでも過失に基づく責任である以上、少年法の理念からは、少年にやり直しの機会を与える必要もあり、いたずらに結果のみにとらわれて厳罰に処するのにはやはり慎重にならざるを得ない。

少なくとも検察官の求刑を上回る刑を科するのには、予測可能性の見地からも反対である。

また、過大な厳罰主義は、世間の人たちはそのことで納得してしまい、その様な犯罪や事故が起こらないようにするにはどうするか?と言った問題の本質から目をそらしてしまう危険性もあるのではないだろうか。





編集後記 - 弁護士ドットコム編集部

今回のアンケートに回答した22人の弁護士のうち9人が、<地裁判決より重くすべき>と回答した。次いで多かったのが、<地裁判決を維持すべき>という意見で、8人が支持した。残りは、<いずれとも言えない>という意見が5人、<地裁判決より軽くすべき>は0人となった。


アンケートの「地裁判決より重くすべき」という意見では、「結果の重大性」や「被害者・遺族感情」などを根拠にあげる弁護士が多かった。「地裁判決を維持すべき」という意見の根底には、「少年法の理念」があり、「少年にやり直しの機会を与える必要がある」という主旨の理由が見られた。


この事故をめぐては、少年が無免許で運転していたことから、法定刑の重い危険運転致死傷罪の成立要件に「無免許運転」を盛り込むよう求める議論が起こっている。また、求刑よりも軽くなった地裁判決に対しても、「一般的な感覚からズレている」という批判の声も少なくない。このように厳罰を求める社会の声と法的な判断がぶつかり合う場面では、もう一度立ち止まって、深い議論をする必要があるのではないだろうか。