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安易な「学歴・経歴詐称」 バレたら会社をクビになるか?

2013年03月12日 10:20  弁護士ドットコム

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今年2月下旬、「武田信玄18代末裔」と名乗る読者モデルが突如として現れ、ネット上で話題となった。この読者モデルは、ニュースサイトのインタビューに応じ、肩書きの真偽について「よく言われますが本当です!」と答えている。


ところが、武田家家臣の末裔の団体「武田家旧温会」が、「甲斐武田正統家出身の方にその様な方はいらっしゃいません」という見解をブログで示したのだ。ただし、「真贋につきましては皆さんでご判断下さい」とも記しており、読者モデルが末裔であることを完全には否定していない。


いずれにせよ、真偽はわかっていない状況だが、もし肩書きを「詐称」したら犯罪に問われるのだろうか。また、これから就職シーズンを迎えようとしているが、学歴や経歴を偽って会社に入り、あとでその嘘がバレた場合はどうだろうか。会社をクビになるのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。


●「◯◯の末裔」という詐称だけなら、犯罪にはならない


小池弁護士によると「公務員などの職名や学位、法令で定められた称号を詐称すると、一応、罪(軽犯罪法1条15号)になります」という。たとえば、「警察官」などの公務員の職名や、博士号などの学位が、これにあたるようだ。


「しかし、『◯◯の社員』とか『◯◯家の末裔』については、詐称するだけなら罪になりません。また、学歴詐称のうち「◯◯高校卒」は罪にならないでしょうし、『◯◯大学卒』は『学位』にあたるかどうか、微妙なラインといえます」


では、学歴や経歴などを偽って、会社に入った場合は、犯罪に問われないのだろうか。


「だまして入社、ということであれば、考えられるのは、詐欺罪(刑法246条)でしょう。この点、詐欺罪は、人をだまして財産上の利益を得る犯罪です。つまり、単にだますだけでは犯罪とはいえず、それによって『財産上の利益』を得たのかどうかが問題なのです。


たとえば、『結婚してあげるから』とだまして、お金を取ると詐欺罪(結婚詐欺)になりますが、『お金をあげるから』とだまして結婚しても財産上の利益を得るわけではないので、詐欺罪にはならないといえます(詐欺結婚)。学歴を偽り、だまして入社したとしても、会社員としての地位を得ただけでは『財産上の利益』とはいえないため、詐欺罪にはならないでしょう」


●重大な経歴詐称では、会社をクビになることも


このように、たとえ学歴や経歴を詐称して会社に入ったとしても、犯罪には問われない可能性が大きいということだ。だが、会社側とすれば、その学歴や経歴に裏打ちされた能力を期待して、その人を採用したのかもしれない。学歴や経歴を偽った人は、会社をクビにならないのだろうか。


「重大な経歴詐称をした場合は、クビ(懲戒解雇)にされることがあります。解雇できるかどうかはケースバイケースですが、経歴詐称が能力評価や組織内の位置づけに影響する場合は、『解雇が可能』とされる傾向があります」


小池弁護士によると、「高卒なのに大卒と偽った場合だけでなく、大卒なのに高卒と詐称した場合でも、『解雇が可能』とされることがあります」ということだ。


このように学歴や経歴の詐称は「犯罪」とまではいえない場合が多いようだが、現実的には、それが発覚すれば、社会的に大きなダメージを受ける可能性がある。これから就職活動をする人は、そのような詐称はしないほうが賢明と言えるだろう。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
小池 拓也(こいけ・たくや)
民事、家事、刑事一般を扱うが、他の弁護士と比較すると、労働事件、交通事故が多い。横浜弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。
事務所名:湘南合同法律事務所
事務所URL:http://shonan-godo.net/index.html