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「ハーグ条約」加盟で国際結婚はどうなる? 弁護士に聞いてみた

2013年03月11日 19:40  弁護士ドットコム

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安倍晋三首相は今年2月に開かれた日米首脳会談で、国際結婚が破綻した夫婦間の子供の扱いを定めた「ハーグ条約」への早期加盟を表明した。早ければ今年5月にも国会で同条約が承認され、日本も加盟する見通しだ。


国際結婚の増加に伴い、結婚生活が破綻した際に、一方の親がもう一方の親の同意なく、自分の母国へ子供を連れ出すといった「子の連れ去り」が、国際問題とし て注目されるようになった。これを受け、片方の親が子どもを国外に連れ出した場合、原則として元の国に戻すよう定めたのが、ハーグ条約である。


これまで日本では同条約への加盟に対する慎重論も根強かったが、G8(主要8カ国)の中で唯一の未加盟国ということで、特に米国から批判を浴びてきた。ハー グ条約に日本も加盟した場合、国際結婚はどうなるのか。また、どのような問題が生じる可能性があるのか。この問題に詳しい堀晴美弁護士に話を聞いた。


●日本の民法では、母親の親権が重視されている


「ハーグ条約で問題となってきたケースで多いのは、日本人女性が在日アメリカ人(特に軍人)と結婚し、その後渡米したものの離婚して、子どもとともに日本に戻ってきたという事例です」


このように堀弁護士は、もっとも典型的なケースをあげながら、次のようにハーグ条約の加盟が求められた背景を説明する。


「日本の民法では、乳幼児については、原則として母親に単独親権が認められ、父親には面会交流権が認められるだけですが、アメリカに住んでいる元夫と子どもの 面会交流が実現する可能性は現実的には低いといえます。その点からも、アメリカからハーグ条約に日本が加盟するよう、強く求められてきました」


●ハーグ条約に加盟すると「子のひきはがし」が起きる


では、ハーグ条約に加盟すると、どういうことが考えられるのか。


「ハーグ条約に加盟すると、母親が子を連れて日本に帰国すると、強制的に元の居住地に帰還を求められることになります。いわゆる『子のひきはがし』という状態に なります。アメリカでは子の連れ去りは刑法上の誘拐罪になるので、母親がその後、合法的にアメリカに入国することは困難になりますから、母親にとっては非 常に酷な状況におかれることになります。


したがって母親は、たとえDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けたとしても、離婚した後も、居住地を離れて子どもと過ごすことが困難になります。これは、日本国憲法上認められている『転居の自由』を侵害しているともいえます」


このように堀弁護士は、ハーグ条約の問題点を指摘する。


●「子どもの福祉」よりも「大人の権利」が優先する?


「日本の民法上、親権については『子の福祉』という観点から考えられてきましたが、ハーグ条約は、子の福祉を一応うたってはいますが、子の引きはがしという事 態や、その後の面会交流の困難さを考えると、子の福祉よりも、『親の子に対する権利』を主眼としたものと言わざるをえません」


堀弁護士によれば、ハーグ条約は「子どもの福祉」よりも「大人の権利」を重視した条約といえそうだ。首相が早期加盟を表明し、一気にそちらへの機運が高まっているが、本当にいま日本が加盟すべきなのか、国会でしっかりと議論する必要があるだろう。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
堀 晴美(ほり・はるみ)
企業の海外進出のサポートを主としているが、離婚、男女関係の問題も取り扱っている。「United Nations Register of Damage caused by the Construction of the Wall in the Occupied Palestinian Territory」の非常勤理事も兼務。国際政治経済が主な関心事で、毎日ジムに通うのが日課。
事務所名:堀国際企業法務法律事務所
事務所URL:http://rikonbengo.com