2013年02月20日 13:10 弁護士ドットコム
世の中にはさまざまな仕事があるが、「別れさせ屋」という風変わりな請負業がある。恋人の浮気に悩む人などから依頼を受けて、その浮気相手に別の異性を近づけたりして、破局を働きかけるのだという。主に、自分で解決できない男女関係に悩む人が、興信所や調査会社など「別れさせ屋」の看板を掲げる業者を利用するようだ。
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最近、新聞で「別れさせ屋」が絡んだ事件が報じられ、話題となった。それによると、交際していた男性の浮気を解消するよう依頼した女性が、調査会社に返金を求めて裁判を起こしたという。女性の主張は、「別れさせ屋は公序良俗に反するから自分が依頼した契約は無効だ」というもの。女性が支払った依頼料は約80万円だったが、消費者金融で借りた金利を加えて、約107万円を賠償するよう求めているという。
たしかに民法には、公序良俗に反する法律行為は無効、という規定(90条)がある。また日本調査業協会では、「いわゆる『別れさせ屋』に準じた事案については絶対にこれをしない」ということを、自主規制項目に挙げている。そうなると、女性が主張しているように、「別れさせ屋」との契約は公序良俗に違反して無効といえるのだろうか。そもそも、「別れさせ屋」という業態は合法なのだろうか。寄井真二郎弁護士に聞いた。
●「別れさせ屋」との契約が公序良俗に違反すると言える場合
たとえば、婚姻関係のあるAさんとBさんがいたとする。AさんがBさんと別れたいと思って、離婚を有利に持っていくために、「別れさせ屋」を近づけて、配偶者のBさんに浮気をさせるようなケースはどうなるのか。
「そのような場合、BさんがAさんに対して負っている『貞操義務』を積極的に侵害するような内容の契約であるといえます。したがって、Aさんと『別れさせ屋』の契約は、公序良俗に違反して無効といえるでしょう」
寄井弁護士は、AさんとBさんが恋人関係にすぎないケースについても付け加える。夫婦と違い、恋人にすぎない場合は、法的な貞操義務があるとまではいえないことから、判断が異なってくるという。
「恋人関係にすぎないケースでは、『別れさせ屋』が依頼の際に説明した料金や手段等に違法性がある場合はともかく、そうでなければ、Aさんと『別れさせ屋』との契約は、直ちに公序良俗違反として無効とまではいえないのではないかと思われます」
●「別れさせ屋」という仕事は合法なのか?
このように、場合によっては、「別れさせ屋」との契約が公序良俗に違反する可能性もあるようだ。では、そもそも「別れさせ屋」という業態は合法なのだろうか。寄井弁護士によると、それを判定するには、「『別れさせ屋』を利用する目的やその手段、業者からの説明の内容や料金等を総合的に考慮する必要がある」という。
「たとえば、現役の暴力団員と交際している人がいたとします。親族が暴力団員との交際を辞めさせるために、『別れさせ屋』を利用したような場合にまで、直ちに違法と評価できるのかというと、難しいところです」
男女関係にはトラブルがつきものとはいえ、「別れさせ屋」に依頼してまで解決しようとするのは尋常ではないだろう。公序良俗違反の可能性もはらんでいるとすれば、できるだけそのような手段に頼らずに解決するのが得策といえそうだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
寄井 真二郎(よりい・しんじろう)弁護士
離婚・相続等の家族関係事案のみならず、金融・企業法務、交通事故、建築瑕疵、知的財産権等幅広く業務を行っている。「家庭弁護士の訟廷日誌」、「田舎弁護士の訟廷日誌」というブログも執筆中。
事務所名:弁護士法人 しまなみ法律事務所
事務所URL:http://www.icknet.ne.jp/~shimas-s/