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「敵を殺害した」英国王子 なぜ軍人は「殺人罪」に問われないのか?

2013年02月07日 21:10  弁護士ドットコム

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イギリス王室のヘンリー王子が「タリバンの兵士を殺害した」と告白したこと大きな反響を呼んでいる。アフガニスタンで英国軍の攻撃ヘリコプターに搭乗する任務にあたっていたとき、そのような経験をしたとインタビューで答えたのだ。


軍人は、人を殺しても殺人罪に問われないのが普通だ。「一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ」というチャップリンの有名な言葉もある。なぜ、軍人は人を殺しても犯罪にならないのか。元衆議院議員という経歴をもつ松原脩雄弁護士に聞いた。


●軍人の殺人行為が許されるのは「国家としての正当な行為」だから


「英国王子の軍事行為が殺人罪にならないのは、その行為が『英国国家としての行為』だったからです」。ズバリそう答える松原弁護士は、なぜそのように言えるのか、次のように段階を追って説明する。


「国家の最も重要な任務は、国民の安全の保障です。それは、国内的には『治安維持』であり、対外的には『安全保障』と呼ばれます。


治安の維持にしても安全保障にしても、その目的を達成するためには『物理力の行使』、言い換えれば『暴力』が必要となります。


治安維持の観点で見れば、『犯罪鎮圧・逮捕』を主任務とする警察は絶えず物理力を行使していますし、裁判所は『死刑』という名の究極の物理力の行使である殺人を命令しています。


安全保障については、外国に対して、または外国において、軍隊による物理力の行使、すなわち『軍事的戦闘行為』が行われます」


●国家は「暴力の行使」が許される唯一の存在


「こうした治安維持や安全保障において『殺人行為』が行われることが珍しくないのに、これが許されているのは、それらの殺人行為が『国家の行為』であるからなのです。


『国家』というものは、国民の存在を前提としますが、『いかなる形態・方法であれ暴力を使用することについての正統性の根拠である』(マックス・ヴェーバー)とされ、国民には許されない物理力の行使=暴力の行使が、『正義』の名の下に、唯一許される存在なのです。


このようにして英国王子の殺人行為は、それが『英国国家の正当な軍事行為』としてなされたがゆえ、殺人罪にはならず、むしろ『正義をなした英雄的行為』とされているわけです」


なぜ軍人には人を殺すことまで許されているのかについて、松原弁護士は「国家の機能」という観点から説明してくれた。逆にいえば、「国家」には、それだけの強大な権力が委ねられているので、われわれ「国民」は、国家がどのように行動しているのか、常に監視していかなければいけないということだろう。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)