2013年01月31日 20:30 弁護士ドットコム
飼い猫を巡る近隣トラブルが後を絶たない。昨年(2012年)10月には痛ましい事件があった。東京都世田谷区で住人同士が飼い猫などを巡るトラブルになり、ついには殺人事件にまで発展したというのだ。殺害された女性は、数匹の野良猫に餌付けをしていたようで、「餌の容器から漂う異臭で周辺住民の評判は悪かった」との報道もあった。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にも、家の外で飼っている猫をめぐる相談が多数、寄せられている。その多くは、糞尿の処理や鳴き声についての苦情だが、車を汚されたり、庭先を荒らされたりなど、さまざまなトラブルが起きているのがわかる。
ただ、屋外で猫を飼うといってもいろいろで、首輪をつけて屋内と屋外を自由に行き来させている飼い主もいれば、野良猫に餌付けしているだけで、トラブルになると「自分は飼い主ではない」と主張する人もいる。
では、他人の飼い猫によって迷惑行為を受けた場合、どのような要求をすることができるのだろうか。この問題に詳しい村田正人弁護士に話を聞いた。
●損害賠償が請求できるかは「受忍限度の範囲」かどうかで決まる
「飼い猫や飼い犬などペットによる迷惑行為で、隣人が被害を受けたときに損害賠償請求ができるかどうかは、社会通念に照らして、受忍限度の範囲内かどうかで判断されます」
受忍限度とは、社会生活を営む上で、常識で考えて「我慢できる限度」を指す言葉だ。今回の場合、ペットによる被害の程度が、社会常識に照らし合わせて我慢できる範囲を超えていると判断される場合は、飼い主に損害賠償を求めることができるということだ。
ただ、受忍限度の判断基準はさまざまだ。村田弁護士は「ペットの行為や飼い主の行為に対する許容限度は、その地域によって異なりますので、一概に違法性は決まりません。大都市の大団地(住宅密集地)と田舎の村落とでは大きな違いがあります」と指摘する。
●問題解決の糸口は、ペットと人が共生できる「街作りのルール」
村田弁護士は、ペットをめぐるトラブルを根本的に解決するための方法について次のように話す。
「損害賠償の裁判で解決できる問題は限られます。解決の視点としては、野良猫(犬)の餌付け規制や糞尿の処理義務など、餌付け人や飼い主に規制をかけるだけではなく、猫(犬)嫌いな人とペット大好き人間が共存できる『街作りのルール』を決めて、双方が共存して暮らせるように、住民の智恵と対話を積み重ねることが必要でしょう」
ペットをめぐる近隣住民の間のトラブルを未然に防ぐためにも、地域の住民が共通の理解をもって、ペット飼育に関する適切なルール作りを進めることが必要ということだ。では、具体的にどのようなルール作りが考えられるのだろうか。村田弁護士はこう提案する。
「たとえば、自治会のルールや地方自治体の条例によるルール作りが考えられます。公園の犬の出入りを全面禁止している自治体もありますが、全面規制だけでは街路樹や街角での糞尿被害が増えることになります。最近は高速道路のサービスエリアでドッグランのスペースがあるところが増えてきましたが、さらに進んで公園に犬のトイレをもうけるなどの新たな工夫が必要だと思います」
ペット飼育に関するルール作りや人とペットが共生できる快適な居住環境の構築などを地域で進め、動物が好きな人も嫌いな人も、様々な価値観の人々が共存できる街作りを図ることが必要とされているということだろう。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
村田 正人(むらた・まさと)
1948年、三重県津市生まれ。76年に弁護士登録(三重護士会)。三重県を拠点に活動。得意案件は交通事故や離婚問題など。2003年三重弁護士会会長。趣味は旅行と食べ歩き。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://homepage3.nifty.com/miegodo/