2013年01月22日 11:20 弁護士ドットコム
今月行なわれた衆議院選挙について、人口比例に基づかない区割りで「一票の格差」が是正されないまま行なわれたのは憲法違反であるとして、弁護士グループが東京1区など計27の選挙区での選挙無効を求め、全国14カ所の高等裁判所や高等裁判所支部すべてに一斉提訴した。
昨年、最高裁判所は最大格差が2.30倍だった平成21年の衆議院選挙を違憲状態と判断していたが、今回の衆議院選挙では格差が約2.43倍まで拡大する結果になった。
そこで今回は特別編として、弁護士ドットコムに登録する弁護士に「自分が最高裁判事なら今回の衆院選は選挙無効と判断するか」を聞いてみた。
1.「違憲」と判断し、選挙無効を認める。 1票
2.「違憲」と判断するが、選挙無効は認めない。 17票
3.「違憲状態」と判断するが、選挙無効は認めない。 2票
4.「合憲」と判断し、選挙無効は認めない。 2票
近藤 公人
投票:「違憲」と判断するが、選挙無効は認めない。
選挙無効と判断した場合、もう一度選挙をすることになるが、選挙区(地域割り)を変更しない限り、選挙をしても、違憲である。「無効」の判断をしても、何ら解決はしない。
裁判所が、選挙区の変更をする能力もないし、裁判所が選挙区の変更をすることが妥当かも疑問がある。
仮に裁判所にその能力があるにしても、一度は、判決において、「次回までに変更しなければ選挙無効を出し、そのときは、このような選挙区としなさい」という判断をしておかないと問題があろう。しかし、裁判所が選挙区の区割り判断をすることは望ましくないので、避けるべきであろう。
大和 幸四郎
投票:「違憲」と判断するが、選挙無効は認めない。
平成21年に違憲状態と判断されたにもかかわらず、さらに一票の格差が広がった状態で選挙がなされた以上、違憲状態というよりも、違憲と考えます。
もっとも、実際に選挙を無効とした場合、当選した議員の身分をどうするのか、再選挙をしなければならないなどの多くの弊害が考えられます。
かかる弊害を考慮すると選挙は違憲であるが、選挙を無効としない判断が、法的安定性の見地からも実際上妥当であると考えます。
佐藤 俊
投票:「合憲」と判断し、選挙無効は認めない。
国家の三要素は、領土と人と権力で構成される。そしてその国家の中の権力を、人が動かすためのシステムが民主主義。この権力によって領土を統治するためには、広く領土全域の意見を国政に反映する必要があり、憲法上、投票価値の平等を求める明文はなく、投票価値が一律にならない可能性について憲法はもともと予定している。
実質的にも、例えば定数を減らし、一県一代表をとらずに、例えば沖縄県から国会議員が出なくなれば、誰が米軍基地問題を訴えるのか。具体的な支障を生じさせるものであり、司法による誤った判断、選挙制度に対する不当な干渉、少数者である過疎地の切捨てである。
投票価値が不平等であると考える方については、移転の自由が認められているし、却って過疎地の居住の自由を奪う結果をも招来する。
大西 達夫
投票:「合憲」と判断し、選挙無効は認めない。
投票価値の平等は、選挙事項法定主義(憲法47条)による国会の裁量権行使の合理性を評価する要素の一つであるにすぎず、投票価値の不平等が著しく妥当性を欠き、明らかに不合理なものでない限り、定数配分規定の違憲無効をもたらすものではないと解すべきである。
素朴に考えても、大都市圏に居住し、たとえ精神的には不安定な状況にあっても、物質的には満たされた都市生活の便益を享受している国民と、地方の過疎地でたとえ精神的には満たされていても、物質的には極めて不便な生活を強いられている国民(←このような見方自体、非常にステレオタイプな都市と地方のカテゴライズとして、批判を浴びかねないが、それはさておき)の投票価値が、形式的に1対1で平等でなければならないというのは、都市生活者のエゴと思われても仕方がないのではなかろうか。
三輪 和彦
投票:「違憲状態」と判断するが、選挙無効は認めない。
平成23年3月23日の最高裁判決は、2.304倍の格差を違憲状態とするものでした。そして、今回の衆議院選挙では格差が約2.43倍まで拡大しています。この2つの事情を踏まえると、今回の格差を合憲とすることは、前回の判決との整合性が保てません。
したがって、この格差自体は「違憲状態」であると判断されるでしょう。
しかし、問題は「国会がこの違憲状態を解消することが可能・容易であったにもかかわらず、解消しなかったと言えるか」どうかにあります。というのも、格差がどんなに拡大し、違憲状態になっていたとしても、国会がその格差を解消する機会がなければ、国会はその権限の行使を怠ったとは言えず、「違憲」とは言えないからです(この場合、「違憲状態」にとどまることになります)。
本件で、違憲状態の最高裁判決が出されていたのは、平成23年3月であって、衆議院選挙の9ヶ月前です。そして、それまでの最高裁の判決において1人別枠方式に伴う選挙区割基準を違憲と判断する判決は存在しませんでした(個別の裁判官の意見としてはさておいて)。
そのことを考慮すると、国会が格差を是正しなければならないことを確定的に認識したのは、平成23年3月のことだと考えられます。そして、国会がこの9ヶ月の間に選挙区割を抜本的に変えることは可能・容易ではなかったと思われます。
したがって、本件において、「違憲状態を解消することが国会にとって可能・容易ではなかった」として、違憲の判決までは出ないであろうと思わます。
なお、私が最高裁判事であっても同様の意見です。
居林 次雄
投票:「違憲」と判断し、選挙無効を認める。
憲法違反の選挙であるということ明確にするためにも、今回の選挙を無効であると判決すべきです。これまでも違憲状態であるという判決をしばしば最高裁が出している以上、もう躊躇することは許されません。
一票の格差が是正されないまま行なわれた今回の衆院選について、もし自分が最高裁判事なら選挙無効と判断するかというアンケートの結果、約77%の弁護士が「違憲と判断するが、選挙無効は認めない。」と回答した。
やはり前回の衆院選について「違憲状態」という判断がされている以上、今回は「違憲状態」ではなく「違憲」と判断すべきと見ている弁護士が多いようだ。
(※違憲状態とは、諸事情を考慮するとただちに違憲とはいえないが、今後合理的な期間内に不平等が是正されないと違憲とされる状態のこと。例えば、選挙実施時の選挙区の定数配分が一票の格差を生じる状態であったとしても、実際にはその是正のために公職選挙法を改正するような合理的な期間がなかった場合には、「違憲」ではなく「違憲状態」の判断が示される。)
一方で、今回のアンケートでは少数派となったが、「合憲」と判断するとした弁護士の意見や、同じテーマの判決予想では見られなかった「選挙無効を認める」という立場からの意見もあるので、現実論の意味合いが強い判決予想と、個人の主観が出る本アンケートの結果の違いをぜひ比べてみてほしい。